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IDPF と W3C の統合案ついて
IDPF 会員向け Q&A 集(FAQ)
【統合プロセスに関して】
Q これまでに W3C と IDPF で行われた協業と、現在の状況について教えてください。
A W3C と IDPF は何年にもわたって協業をしてきました。EPUB 3 の策定中には、W3C との公式な
連絡役が IDPF による HTML5 や CSS 3 の導入を手助けしました。また国際言語のサポートにおけ
る IDPF の取り組みは、W3C の CSS Writing Modes や、行間やドロップキャップといった行処理の
ニーズに対処する機能改訂を手助けしました。IDPF による EPUB 用ページテンプレートへの取り
組みは W3C の CSS Regions と CSS Pagination Templates の取り組みへと繋がりました。この間
を通じて EPUB の主な利用形態は「Web ベースではない(例えばオフライン)」環境におけるもので
した。
ところがウェブ技術を基盤とする出版物では、オンライン・オフラインどちらででも利用できるように
したいというニーズが明らかになり、両者をシームレスに行き来できるようにしたいという要求が生
まれました。W3C と IDPF の技術リーダーたちは協力しあって次のビジョンとなる EPUB+Web を展
開し、2014 年 10 月の“Books in Browsers”カンファレンスで共同発表しました。
これまで W3C は特定分野の産業へのサポートを増やしてきましたが、最近では出版産業へ特に
力を入れてきています。W3C は 2013 年の前期にいくつかのワークショップを開催し、後期には
Digital Publishing Activity と Interest Group (IG)を組織しました。これは、W3C の既存の仕様を向
上させて出版社のニーズにかなうレイアウト機能をウェブの文書に提供する取り組みに加え、
EPUB+Web(現在では Portable Web Publications や PWP と呼ばれる)のヴィションを前進させよう
とするものでした。.
これと並行して IDPF では EPUB を EPUB 3.1 に改訂する作業を始めました。また、IDPF は profile
of EPUB for e-Textbooks and other learning content についての作業を終えようとしています。
また EPUB には当初からアクセシビリティ要件をサポートするという目的があります。それは
DAISY Consortium との長年にわたるコラボレーションや W3C の Web Accessibility Initiative との
連携によって進められてきました。最近ではさらなるコラボレーションが生まれる可能性がありま
す。(リハビリテーション法第 508 条を持つ)アメリカや(PDF での対応が難しい)アクセシブルな電
子文書が求められる地域では、アクセシビリティ義務化の改訂に対応する必要があるため、公開
文書への EPUB の採用が急速に進んでいます。この新しい要件は W3C の WCAG 2 に基づいて
います。
Q なぜ IDPF と W3C は統合を検討しているのですか?
A W3C で Portable Web Publications (PWP)と呼ばれている活動方向こそが、EPUB 4 の目指す
べきものであることがはっきりとしてきました。EPUB 4 とは、これから EPUBに対して行われる大規
模な(完全な下位互換性を持たない)改訂のことです。また、この目的を達成するには IDPF やそ
のコミュニティからの取り組みが必要不可欠であることも明らかです。これらを踏まえると、この統
合は、PWP の活動と、EPUB(3.1)の重要かつ重要なリリースとを並行して進めてこそ、情報共有や
リソースを含め、出版関連業界・諸団体の知見を効果的に活用できるものと思われます。将来の
EPUB 4(旧PWP)の仕様が、IDPFの知見を取り入れたW3Cの活動によって作られることを明確に
しておけば、PWP の活動が促進されるとともに、EPUB 3.1 へ集中的に力を注いで完成を早めるこ
とが可能になります。
IDPF は世界的な(特に電子書籍の)出版産業から熱心な参加を得てきました。しかしウェブにお
ける次世代のポータブル文書としての EPUB のゴールは、商業出版の壁を乗り越え、本の出版以
外のセグメントにまで広がってゆくでしょう。統合によって W3C はこれまで以上にウェブコミュニティ
の人材や人脈を提供できるようになり、EPUB 4は一般的なウェブベースのポータブル文書の標準
として、広範な進化と普及が進んでゆくことでしょう。来るべき電子文書のアクセシビリティ義務化
でもこのソリューションが役立つはずです。
EPUBはすでに HTML5 をはじめとするオープン・ウェブ・プラットフォームの要素で作られており、こ
のようなウェブ技術への依存は(W3C の Web Annotation の活動に基づく) Open Annotations in
EPUB や、WCAG に基づくアクセシビリティ義務化などの領域でさらに密接なものになっています。
つまり EPUB の未来は、すでに W3C の将来的な成功と強く結びついているのです。PWP のビジョ
ンの共有が示すとおり、デジタル出版物とウェブコンテンツの境界はいまよりも不鮮明なものにな
ってゆきます。また近年 IDPF は出版産業のニーズを満たすには、既存のウェブ標準技術の上で
目標を定めるだけでなく「先進的な」ウェブ標準技術も取り入れてゆく必要があると感じています。
したがって私たちは、次世代の EPUB の活動が W3C に統合されることが IDPF と W3C の双方にと
って意味あるものとなり、両者の専門知識を吸い上げて、共通のヴィジョンと使命を推し進めるこ
とができ、また近未来に協同して諸課題にも対処できると信じています。W3C は EPUB とポータブ
ルなウェブの出版物が、出版産業の外でも広く知られる信頼性の高い存在になる手助けとなるで
しょう。一方で IDPF が持つ出版産業との強い繋がりは、W3C で始まった PWP の活動が出版コミ
ュニティにとって、より関係が深く信頼感のあるものになる手助けとなるでしょう。
Q EPUBの標準化を W3Cに移す間、IDPFを事業者団体として存続させることは検討
していますか?
A もともと IDPF の活動には電子書籍やデジタル出版のビジネスレベルでの啓蒙普及が含まれて
いましたが、その組織目標はこの 6 年の間に変化し、標準仕様の開発に注力するようになりまし
た。とりわけ、先進的なオープン・ウェブ・プラットフォームを土台とするデジタル出版物のための、
普遍的でアクセシブルな交換・配信用エコシステムとして、EPUB を協力しあいながら開発し普及
に努めてきました。私たち以外の組織、たとえば BISG などは、よりビジネスレベルの事柄に注力
してきました。標準仕様の開発を W3C に移し、広大なオープン・ウェブ・プラットフォームでのデジタ
ル出版活動へ持てる力を集約し、IDPF のすべての機能を W3C に統合して、BISG、EDItEUR、
DAISY などの業界団体と強い連携を続けてゆくことが、出版産業にとって最善の利益になる、と
IDPF 理事会は信じています。
Q 両組織の統合はすでに承認されているのでしょうか? まだ承認されていないな
らば、これから IDPF 内での承認手続はどうなるのでしょうか?
A この統合はまだ承認されていません。W3Cのリーダーたちは IDPFのリーダーたちや理事会と
同様に、将来的に IDPF を W3C に統合するための検討を進めています。しかし実際の統合にあた
っては、相当な注意と各種のチェックが必要となります。両者それぞれがフィードバックやインプッ
トを得て、最終的には IDPF と W3C 会員全体から支持される必要があります。
IDPF 側では IDPF のリーダーたちや理事会が5月下旬までにフィードバックを集めています。その
あとで、IDPF 理事会が統合を正式に承認する会員投票を募る判断をします。これが IDPF 側の最
終ステップになります。
Q 統合が承認されなかった場合はどうなりますか?
A IDPF と W3C は、今後とも合意の有無に関わらず緊密な連携を続けてゆくでしょう。これは両団
体のリーダーたちが同意した友好的な提案であり、潜在的な利益だけではなくリスクがあることも
よく理解していますし、両者は統合を進める以外の結果にも備えています。
Q これまで IDPF が開催してきたイベントはどうなりますか?
A 出版業界をターゲットにしたイベントを通じた出版業界への働きかけは継続されていくと考えて
います。
【会員資格について】
Q 統合されると IDPF 会員は W3C でどのように扱われるのでしょうか?
A W3C は、現在参加している旧 IDPF 会員組織や他の出版産業からの参加者を迎えるために、
新しく Publishing Business Group を設立する予定です。加えて、現在の IDPF 会員に経過措置とし
て Publishing Working Group への 2 年間の会員資格を提供し、次の EPUB の大きな改訂を、オー
プン・ウェブ・プラットフォームに追加するべきコンポーネントとして指定するチャーターを追加しま
す。
Q 統合後の IDPF 理事会の役割は何ですか?
A 現在の IDPF 理事会のメンバーは暫定的に、Publishing Steering Committee(訳注: 運営委員
会) のメンバーに任命されますが、Publishing Business Group のメンバーが定足数に達すると最
終的な運営委員会 が選出されます(2017 年中におこなわれると予測されます)。この 運営委員
会は重要な監督責任を持ち、W3CのPublishing Activity Lead との連絡役として評価目標と優先順
位を設定したり、Publishing Working Group の議長や共同議長の選出に関わります。
【標準化活動について】
Q この統合案によって、EPUB 3.1 やEPUB FOR EDUCATION の開発計画やタイムラ
インが変更されることはありますか?
A いいえ。この統合案は 2017 年 1 月まで有効にならない、というのは IDPF が EPUB for
Education profile と EPUB 3.1 を、IDPF の手続きと知的財産ポリシーの下で 2016 年中に完成でき
るようにするためなのです。これらの取り組みはすでに大きく進行しており、出版業界からも求め
られているため、途中で変更はしません。
IDPF EPUB Working Group では最近、EPUB 3.1 の改訂範囲を狭めるべきという結論を出しました。
特定の機能については改定を将来の大規模なアップグレードまで先送りしてリスクを減らし、今す
ぐ効果のある改良に注力することで、移行にまつわるコストを最小化するためです。この変更は統
合案に対して直接の影響を与えるものではありませんが、EPUB 4 の改訂を W3C で行うという計
画には整合しています。W3Cは何よりもこれらの追加機能(ブラウザと親和性の高い非パッケージ
化されたシリアライゼーション、非 XML の HTML シリアライゼーション、epub:type 属性から ARIA
の“role”属性への移行など)を実現する上での手助けとなるはずです。これらの機能のすべてが
長期にわたるウェブ・プラットフォームとの整合に関連するため、EPUB の開発を W3C に移すのは
極めて適切であると思われます。
Q EPUB 3.X、EPUB FOR EDUCATION PROFILE やその他のモジュール化された
EPUB 拡 張 ( INDEXES 、 DICTIONARIES 、 MULTIPLE RENDITIONS 、 OPEN
ANNOTATIONS など )は、統合後にもメンテナンスされますか?
A EPUB 3.x や関連する IDPF のモジュール化された仕様とプロファイルは、W3C Publishing
Business Group と Steering Committee の監督の下で、軽量な「オープンソース」の流儀に従ってメ
ンテナンスされるはずです。
Q W3C での「EPUB 4」の計画はどのようなものですか? また W3C DIGITAL
PUBLISHING INTEREST GROUP (DPUB IG)の「PORTABLE WEB PUBLICATIONS」
の活動とはどのように関連しますか?
A DPUB IG の「Portable Web Publications」と呼ばれる長期計画は、EPUB 4 と呼ばれる予定の、
EPUB の次の大規模な改訂を進める上で、当初 EPUB 3.1 でターゲットとしていた作業と並ぶ主要
な方向付けになるでしょう。ワーキンググループのチャーターは W3C Processに従って提案とレビ
ューが行われると予想されます。将来の EPUB 4 のスコープは「白紙状態」から進めるのではなく、
EPUB 3.x をベースにして、EPUB 3.x のありかたを尊重するものになります。それは破壊的な移行
ではなく、EPUB コミュニティの継続的な拡大に資するものです。また EPUB 3 への完全な移行が
未だ進行中であるため、私たちは出版コミュニティが、統合によって下位互換性や EPUB 3 として
作られた膨大なコンテンツ資産が毀損されないという確信が持てるよう、担保する必要がありま
す。
Q 既存の EPUB 仕様の著作権は誰のものになりますか? また EPUB のトレードマ
ークやロゴなどの所有者は誰になりますか?
A 統合が承認された場合、IDPF はあらゆる著作権、トレードマークやその他の知的財産を W3C
へ譲渡します。
Q Publishing Activity(Publishing Business Group と Publishing Working Group を含む)
は将来の EPUB 4 以外の事柄についても活動する予定ですか?
A もちろんです。将来的に拡大される Publishing Activity や新しい Business Group と Working
Group に関する提案チャーターが移行期間中に定義され、提出されて W3C のメンバーのレビュー
を受けることになりますが、あらかじめ「Digital Publishing」ではなく「Publishing」という名前を選ん
だ主な理由は、活動範囲を広げられるようにするためです。たとえば高品質な印刷(POD - プリン
ト・オン・デマンドを含む)機能を改良して、一般的なウェブコンテンツにふさわしいものにしてゆくこ
となどが考えられます。
https://medium.com/@naypinya/books-in-a-browser-375df76207ce?source=userActivitySh
are-cbfa64d983ea-1463706918
https://medium.com/@dauwhe/w3c-and-idpf-better-together-c92988674444#.bbvxuriba
http://idpf.org/board-elections-2016-05/candidate-statements/yoshii

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Idpfとw3 cの統合案ついて

  • 1. IDPF と W3C の統合案ついて IDPF 会員向け Q&A 集(FAQ) 【統合プロセスに関して】 Q これまでに W3C と IDPF で行われた協業と、現在の状況について教えてください。 A W3C と IDPF は何年にもわたって協業をしてきました。EPUB 3 の策定中には、W3C との公式な 連絡役が IDPF による HTML5 や CSS 3 の導入を手助けしました。また国際言語のサポートにおけ る IDPF の取り組みは、W3C の CSS Writing Modes や、行間やドロップキャップといった行処理の ニーズに対処する機能改訂を手助けしました。IDPF による EPUB 用ページテンプレートへの取り 組みは W3C の CSS Regions と CSS Pagination Templates の取り組みへと繋がりました。この間 を通じて EPUB の主な利用形態は「Web ベースではない(例えばオフライン)」環境におけるもので した。 ところがウェブ技術を基盤とする出版物では、オンライン・オフラインどちらででも利用できるように したいというニーズが明らかになり、両者をシームレスに行き来できるようにしたいという要求が生 まれました。W3C と IDPF の技術リーダーたちは協力しあって次のビジョンとなる EPUB+Web を展 開し、2014 年 10 月の“Books in Browsers”カンファレンスで共同発表しました。 これまで W3C は特定分野の産業へのサポートを増やしてきましたが、最近では出版産業へ特に 力を入れてきています。W3C は 2013 年の前期にいくつかのワークショップを開催し、後期には Digital Publishing Activity と Interest Group (IG)を組織しました。これは、W3C の既存の仕様を向 上させて出版社のニーズにかなうレイアウト機能をウェブの文書に提供する取り組みに加え、 EPUB+Web(現在では Portable Web Publications や PWP と呼ばれる)のヴィションを前進させよう とするものでした。. これと並行して IDPF では EPUB を EPUB 3.1 に改訂する作業を始めました。また、IDPF は profile of EPUB for e-Textbooks and other learning content についての作業を終えようとしています。 また EPUB には当初からアクセシビリティ要件をサポートするという目的があります。それは DAISY Consortium との長年にわたるコラボレーションや W3C の Web Accessibility Initiative との 連携によって進められてきました。最近ではさらなるコラボレーションが生まれる可能性がありま
  • 2. す。(リハビリテーション法第 508 条を持つ)アメリカや(PDF での対応が難しい)アクセシブルな電 子文書が求められる地域では、アクセシビリティ義務化の改訂に対応する必要があるため、公開 文書への EPUB の採用が急速に進んでいます。この新しい要件は W3C の WCAG 2 に基づいて います。 Q なぜ IDPF と W3C は統合を検討しているのですか? A W3C で Portable Web Publications (PWP)と呼ばれている活動方向こそが、EPUB 4 の目指す べきものであることがはっきりとしてきました。EPUB 4 とは、これから EPUBに対して行われる大規 模な(完全な下位互換性を持たない)改訂のことです。また、この目的を達成するには IDPF やそ のコミュニティからの取り組みが必要不可欠であることも明らかです。これらを踏まえると、この統 合は、PWP の活動と、EPUB(3.1)の重要かつ重要なリリースとを並行して進めてこそ、情報共有や リソースを含め、出版関連業界・諸団体の知見を効果的に活用できるものと思われます。将来の EPUB 4(旧PWP)の仕様が、IDPFの知見を取り入れたW3Cの活動によって作られることを明確に しておけば、PWP の活動が促進されるとともに、EPUB 3.1 へ集中的に力を注いで完成を早めるこ とが可能になります。 IDPF は世界的な(特に電子書籍の)出版産業から熱心な参加を得てきました。しかしウェブにお ける次世代のポータブル文書としての EPUB のゴールは、商業出版の壁を乗り越え、本の出版以 外のセグメントにまで広がってゆくでしょう。統合によって W3C はこれまで以上にウェブコミュニティ の人材や人脈を提供できるようになり、EPUB 4は一般的なウェブベースのポータブル文書の標準 として、広範な進化と普及が進んでゆくことでしょう。来るべき電子文書のアクセシビリティ義務化 でもこのソリューションが役立つはずです。 EPUBはすでに HTML5 をはじめとするオープン・ウェブ・プラットフォームの要素で作られており、こ のようなウェブ技術への依存は(W3C の Web Annotation の活動に基づく) Open Annotations in EPUB や、WCAG に基づくアクセシビリティ義務化などの領域でさらに密接なものになっています。 つまり EPUB の未来は、すでに W3C の将来的な成功と強く結びついているのです。PWP のビジョ ンの共有が示すとおり、デジタル出版物とウェブコンテンツの境界はいまよりも不鮮明なものにな ってゆきます。また近年 IDPF は出版産業のニーズを満たすには、既存のウェブ標準技術の上で 目標を定めるだけでなく「先進的な」ウェブ標準技術も取り入れてゆく必要があると感じています。 したがって私たちは、次世代の EPUB の活動が W3C に統合されることが IDPF と W3C の双方にと って意味あるものとなり、両者の専門知識を吸い上げて、共通のヴィジョンと使命を推し進めるこ とができ、また近未来に協同して諸課題にも対処できると信じています。W3C は EPUB とポータブ ルなウェブの出版物が、出版産業の外でも広く知られる信頼性の高い存在になる手助けとなるで
  • 3. しょう。一方で IDPF が持つ出版産業との強い繋がりは、W3C で始まった PWP の活動が出版コミ ュニティにとって、より関係が深く信頼感のあるものになる手助けとなるでしょう。 Q EPUBの標準化を W3Cに移す間、IDPFを事業者団体として存続させることは検討 していますか? A もともと IDPF の活動には電子書籍やデジタル出版のビジネスレベルでの啓蒙普及が含まれて いましたが、その組織目標はこの 6 年の間に変化し、標準仕様の開発に注力するようになりまし た。とりわけ、先進的なオープン・ウェブ・プラットフォームを土台とするデジタル出版物のための、 普遍的でアクセシブルな交換・配信用エコシステムとして、EPUB を協力しあいながら開発し普及 に努めてきました。私たち以外の組織、たとえば BISG などは、よりビジネスレベルの事柄に注力 してきました。標準仕様の開発を W3C に移し、広大なオープン・ウェブ・プラットフォームでのデジタ ル出版活動へ持てる力を集約し、IDPF のすべての機能を W3C に統合して、BISG、EDItEUR、 DAISY などの業界団体と強い連携を続けてゆくことが、出版産業にとって最善の利益になる、と IDPF 理事会は信じています。 Q 両組織の統合はすでに承認されているのでしょうか? まだ承認されていないな らば、これから IDPF 内での承認手続はどうなるのでしょうか? A この統合はまだ承認されていません。W3Cのリーダーたちは IDPFのリーダーたちや理事会と 同様に、将来的に IDPF を W3C に統合するための検討を進めています。しかし実際の統合にあた っては、相当な注意と各種のチェックが必要となります。両者それぞれがフィードバックやインプッ トを得て、最終的には IDPF と W3C 会員全体から支持される必要があります。 IDPF 側では IDPF のリーダーたちや理事会が5月下旬までにフィードバックを集めています。その あとで、IDPF 理事会が統合を正式に承認する会員投票を募る判断をします。これが IDPF 側の最 終ステップになります。 Q 統合が承認されなかった場合はどうなりますか? A IDPF と W3C は、今後とも合意の有無に関わらず緊密な連携を続けてゆくでしょう。これは両団 体のリーダーたちが同意した友好的な提案であり、潜在的な利益だけではなくリスクがあることも よく理解していますし、両者は統合を進める以外の結果にも備えています。
  • 4. Q これまで IDPF が開催してきたイベントはどうなりますか? A 出版業界をターゲットにしたイベントを通じた出版業界への働きかけは継続されていくと考えて います。 【会員資格について】 Q 統合されると IDPF 会員は W3C でどのように扱われるのでしょうか? A W3C は、現在参加している旧 IDPF 会員組織や他の出版産業からの参加者を迎えるために、 新しく Publishing Business Group を設立する予定です。加えて、現在の IDPF 会員に経過措置とし て Publishing Working Group への 2 年間の会員資格を提供し、次の EPUB の大きな改訂を、オー プン・ウェブ・プラットフォームに追加するべきコンポーネントとして指定するチャーターを追加しま す。 Q 統合後の IDPF 理事会の役割は何ですか? A 現在の IDPF 理事会のメンバーは暫定的に、Publishing Steering Committee(訳注: 運営委員 会) のメンバーに任命されますが、Publishing Business Group のメンバーが定足数に達すると最 終的な運営委員会 が選出されます(2017 年中におこなわれると予測されます)。この 運営委員 会は重要な監督責任を持ち、W3CのPublishing Activity Lead との連絡役として評価目標と優先順 位を設定したり、Publishing Working Group の議長や共同議長の選出に関わります。 【標準化活動について】 Q この統合案によって、EPUB 3.1 やEPUB FOR EDUCATION の開発計画やタイムラ インが変更されることはありますか? A いいえ。この統合案は 2017 年 1 月まで有効にならない、というのは IDPF が EPUB for Education profile と EPUB 3.1 を、IDPF の手続きと知的財産ポリシーの下で 2016 年中に完成でき るようにするためなのです。これらの取り組みはすでに大きく進行しており、出版業界からも求め られているため、途中で変更はしません。 IDPF EPUB Working Group では最近、EPUB 3.1 の改訂範囲を狭めるべきという結論を出しました。
  • 5. 特定の機能については改定を将来の大規模なアップグレードまで先送りしてリスクを減らし、今す ぐ効果のある改良に注力することで、移行にまつわるコストを最小化するためです。この変更は統 合案に対して直接の影響を与えるものではありませんが、EPUB 4 の改訂を W3C で行うという計 画には整合しています。W3Cは何よりもこれらの追加機能(ブラウザと親和性の高い非パッケージ 化されたシリアライゼーション、非 XML の HTML シリアライゼーション、epub:type 属性から ARIA の“role”属性への移行など)を実現する上での手助けとなるはずです。これらの機能のすべてが 長期にわたるウェブ・プラットフォームとの整合に関連するため、EPUB の開発を W3C に移すのは 極めて適切であると思われます。 Q EPUB 3.X、EPUB FOR EDUCATION PROFILE やその他のモジュール化された EPUB 拡 張 ( INDEXES 、 DICTIONARIES 、 MULTIPLE RENDITIONS 、 OPEN ANNOTATIONS など )は、統合後にもメンテナンスされますか? A EPUB 3.x や関連する IDPF のモジュール化された仕様とプロファイルは、W3C Publishing Business Group と Steering Committee の監督の下で、軽量な「オープンソース」の流儀に従ってメ ンテナンスされるはずです。 Q W3C での「EPUB 4」の計画はどのようなものですか? また W3C DIGITAL PUBLISHING INTEREST GROUP (DPUB IG)の「PORTABLE WEB PUBLICATIONS」 の活動とはどのように関連しますか? A DPUB IG の「Portable Web Publications」と呼ばれる長期計画は、EPUB 4 と呼ばれる予定の、 EPUB の次の大規模な改訂を進める上で、当初 EPUB 3.1 でターゲットとしていた作業と並ぶ主要 な方向付けになるでしょう。ワーキンググループのチャーターは W3C Processに従って提案とレビ ューが行われると予想されます。将来の EPUB 4 のスコープは「白紙状態」から進めるのではなく、 EPUB 3.x をベースにして、EPUB 3.x のありかたを尊重するものになります。それは破壊的な移行 ではなく、EPUB コミュニティの継続的な拡大に資するものです。また EPUB 3 への完全な移行が 未だ進行中であるため、私たちは出版コミュニティが、統合によって下位互換性や EPUB 3 として 作られた膨大なコンテンツ資産が毀損されないという確信が持てるよう、担保する必要がありま す。 Q 既存の EPUB 仕様の著作権は誰のものになりますか? また EPUB のトレードマ ークやロゴなどの所有者は誰になりますか? A 統合が承認された場合、IDPF はあらゆる著作権、トレードマークやその他の知的財産を W3C
  • 6. へ譲渡します。 Q Publishing Activity(Publishing Business Group と Publishing Working Group を含む) は将来の EPUB 4 以外の事柄についても活動する予定ですか? A もちろんです。将来的に拡大される Publishing Activity や新しい Business Group と Working Group に関する提案チャーターが移行期間中に定義され、提出されて W3C のメンバーのレビュー を受けることになりますが、あらかじめ「Digital Publishing」ではなく「Publishing」という名前を選ん だ主な理由は、活動範囲を広げられるようにするためです。たとえば高品質な印刷(POD - プリン ト・オン・デマンドを含む)機能を改良して、一般的なウェブコンテンツにふさわしいものにしてゆくこ となどが考えられます。 https://medium.com/@naypinya/books-in-a-browser-375df76207ce?source=userActivitySh are-cbfa64d983ea-1463706918 https://medium.com/@dauwhe/w3c-and-idpf-better-together-c92988674444#.bbvxuriba http://idpf.org/board-elections-2016-05/candidate-statements/yoshii