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Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 0‐ ©2013 Mori Hamada & Matsumoto all rights reserved©2017 Mori Hamada & Matsumoto all rights reserved
森・濱田松本法律事務所
パートナー弁護士 増 島 雅 和
ベンチャーファイナンスの法的課題と論点
官学フォーラム「イノベーションとファイナンス」
July 2019
ー インターネットによる資本アクセスの民主化の潮流への制度対応 ー
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自己紹介
増島 雅和(ますじま まさかず)
森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
2001 弁護士登録
2006 米国ウィルソン・ソンシーニ法律事務所(シリコンバレーオフィス)
2007 ニューヨーク州弁護士登録
2010 金融庁監督局銀行第一課(RRP担当)兼保険課
日経CSISバーチャルシンクタンク・フェロー
2013 経済産業省 新事業創出支援関係者会議 委員
2015 IMF外部カウンセル(米国FSAP: 金融破綻処理法制担当)
2016 経済産業省 FinTech研究会 ブロックチェーン研究会 委員
内閣官房IT総合戦略本部 シェアリングエコノミー検討会合 委員
全銀協オープンAPIのあり方に関する検討会 委員
2017 経済産業省 ブロックチェーン法制度検討会 委員
経済産業省 研究開発型ベンチャー企業と事業会社の連携加速に向けた調査検討会 委員
2018 内閣府 革新的事業活動評価委員会 委員
2019 総務省 AIインクルージョン検討会議 委員
日本クラウドファンディング協会理事、日本ベンチャーキャピタル協会顧問、FINOVATORS代表、
日本ブロックチェーン協会アドバイザー、仮想通貨事業者協会顧問、ブロックチェーン推進協会アドバイザー 等
イニシアチブ: 金融の力で我が国産業構造のイノベーションを加速する「Startup Innovators」主宰
http://startupinnovators.jp/
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トピック
1. 日本のイノベーション・エコシステムの課題
2. 課題に対する打ち手ー検討の視点ー
3. 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策①
4. 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策②
5. ベンチャーファイナンスの実務における論点
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日本のイノベーション・エコシステムの課題
現在の日本のスタートアップ政策は、Society5.0の社会実装のための重点施策の一つとして位置づけられている
「Society 5.0」の社会実装において、イノベーションの担い手であるベンチャー企業は重要な存在であるが、我が国発の
ユニコーン・ベ ンチャーは依然として少なく、また、各国・各地域間でのベンチャー・エコシステム競争はますます激化して
いる。 このままでは日本は世界の成長に取り残されるのではないか、今こそグローバルに成長するベンチャー企業を生み
出すために英知を結集すべきではないかという危機感のもと、世界で勝つことのできる有望なベンチャー及びそれらの候
補を創出する若者に対して政策リソースを重点化することにより、我が国経済を牽引するような企業を創出することが
求められている。 このため、我が国の強みを活かし、官民が一丸となってあらゆる政策を総動員すること等を通じて、我
が国のベンチャー・エコシステムの構築を加速し、グローバルなベンチャー企業を生み出していく。
未来投資戦略2018 ー「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革ー
 設定KPI
 ベンチャー企業へのVC投資額の対名目GDP比を2022年までに倍増
ー 2014年-2016年の3カ年平均:0.025%
ー 2015年-2017年の3カ年平均:0.030%
 ユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)及び上場ベンチャー企業(2018年
度当初時点で未設立又は創業10年以内)を2023年までに20社創出
ー 未上場企業:2社(2019年2月現在)
ー 上場企業:5社(2019年4月現在)
 施策
 グローバルに活躍するベンチャー企業の創出・育成
 イノベーションと創業支援
 新規産業の創出
世界で戦えるメガベンチャーを生み出す
ために資本市場はなにができるか?
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日本のイノベーション・エコシステムの課題
世界的なスタートアップとなるためには、投資期間を稼げることが必要
時間
 グローバルなマーケット開拓のためにJカーブを深く掘ることが必要
 レベニューを生むまでの資金投下額が大きくなる研究開発型ベンチャー(Society5.0型)はJカーブが深くなる
資金
• 海外マーケット開拓
• 研究開発資金(モノ製作資金)
日本の未上場・上場の資本市場は、
スタートアップが世界を狙ってJカーブを
深くすることを許容する制度に
なっているか?
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日本のイノベーション・エコシステムの課題
日本の資本市場は、未上場・上場の双方の市場ともに国内特化型の小型スタートアップを促進する方向に機能し
ているのではないか
時間
資金
早期黒字化の要請
早期上場の要請
赤字を許容しない
上場株式市場
早期上場
可能な市場
• VCファンドのエグジット期間の想定は3-5年
ー VCによる早期上場のプレッシャー
 経営者に対する買取義務
 「上場できるのに上場しない場合には買取れ」
• 上場のためには実務的には黒字化(又は上場
後早期の黒字化)が求められる
 赤字上場が許容されるのは例外
 上場審査の厳格化の傾向
• 上場後には赤字を許容しない株式市場
 非上場のまま海外市場を開拓する
選択肢がない
 上場後も海外市場の開拓のための
資金投下を株式市場が許容しない
言語の問題、経営層のダイバーシティのなさ、早期上場可能な
市場の存在を背景に、国内マーケットのみ小さく取って早上がりし、
その後にも国際化できないスタートアップのみ再生産
日本人
経営陣
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日本のイノベーション・エコシステムの課題に対する打ち手ー検討の視点
問題を特定し、打ち手を講ずるためには、取り巻く環境の全体から制度間の補完関係を正しく読み解くことが重要
 早期上場することができる(が赤字を認めたがらない)市場が存在すること自体は問題ではない
 ユニコーン企業がすべてではないし、上場後に時価総額を伸ばすベンチャー企業も存在
 アマゾン型の成長を目指して粘り強く市場に「将来のための意志ある赤字」への理解を求めるベンチャー企業も
ー メルカリ
 早期上場を念頭に、上場後のバリューアップにコミットしてレイターステージから投資する新しいタイプのファンドも登場
ー シニフィアンのTHE FUND
 VCファンドの行動は、その後ろにいるLP投資家の期待を反映したものに過ぎない
 LP投資家である事業会社・金融機関の中期経営計画
 VCとしても後続ファンドを立ち上げてマネジメントフィーを課金しないと固定費を賄えない
ー マネジメントフィーは設立から5年経過後に低下
ー 後続ファンドの資金調達のためにも現ファンドのエグジット実績は重要
 シード・アーリーステージを支える代替的な資金調達手段の出現
 ものづくり系スタートアップに対するプロダクトマーケットフィットの活動を資金面で支える購入型クラウドファンディング
ー Makuake(マーケティング型クラウドファンディング)
 研究開発系やSDGs系スタートアップの長期資金ニーズを支える寄付型・半購入型クラウドファンディング
ー Readyfor
 シード段階のスタートアップに向けた株式型クラウドファンディング
ー FUNDINNO、エメラダ・エクイティ
 上場後に成長資金が必要なスタートアップに対する劣後貸付を提供するソーシャルレンディングも登場
ー クラウドポート
 低金利を背景としたリスクマネー供給に対するアペタイトは、機関投資家にとどまらず拡大している
ー ファンドへの投資家層の拡大、エンジェル投資家層の拡大、代替的ファンディング手段への投資家層の拡大
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日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策①
第一種金融商品取引業者による非上場会社の株式取扱いの解禁(又は緩和)を通じた、非上場株式市場のビ
ジネスモデルの多様化を図ることはできないか
 証券会社に対して、非上場株式の私募の取扱いや売買の仲介を規制する法律は存在しない
 日証協の自主規制「店頭有価証券に関する規則」第3条により、証券会社による非上場株式の取扱いは厳格な制限に服する
ー 適格機関投資家向け投資勧誘(4条)
ー 適格機関投資家以外に向ける場合には、日証協に届け出た上で日証協が適当と認めたものに限定(6条)
ー 上記以外に目論見書が不要なものは、株主コミュニティ制度又は株式投資型クラウドファンディングのみ
<背景>
 IPOまでの期間の長期化
 上場せずに多額の資金をグローバルに集めることができる市場環境
 初期投資家にエグジット機会を提供する必要性
 初期投資家にエグジット機会を提供することができているからこそ、IPOまでの時間を長くすることができユニコーンがうまれやすくなっている
 メガ投資を呼び込むにあたっての大きな希釈化を防止するためのセカンダリーアレンジメントの必要性
 グローバルなメガ資金調達をリードすることができない日本のVCの現状からすると、プロフェッショナルによるメガ調達のアレンジメントサービスがユニ
コーン化には必須なのではないか? 世界の非上場株式のセカンダリー取引の推移
資料:Coller Capital
<日本の規制の現状>
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日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策①
セカンダリーに特化するファンドもユニコーン化を推進するための補完的な方策だが、日本はセカンダリーファンドを標
榜するファンドは少ない
 投資家のポートフォリオのダイバーシフィケーションを促進し、非上場株式投資のリスク管理をしやすくする
 スタートアップの非上場期間を長くすることでJカーブを緩やかにすることが可能
 スタートアップの資本戦略の柔軟化にも役立つ
<セカンダリー市場の意義>
<売り手層の拡大>
 マーケットの状況に応じて戦術的にアセットアロケーションを調整するニーズ
 戦略的投資家(事業会社)の戦略変更に伴う売却ニーズ
ー 人事異動・経営陣の交代
ー ビジネスモデルの変更に伴うポートフォリオの入れ替えニーズ
ー 事業会社自身のM&Aに伴うポートフォリオの売却ニーズ
 ファンドの増加によりファンド満期に伴う売却ニーズが拡大
<買い手層の拡大>
 伝統的なセカンダリー特化型ファンドモデル
 VC持分ごとセカンダリーで購入するFoFモデル
 世界ではランダムな投資家層の拡大
ー 富裕層
ー エンダウメント
ー 基金・年金
<プロフェッショナルアドバイザー層の拡大>
海外ではGreenhill, Campbell Lutyens, Park Hill, UBS, Lazard, Credit Suisse, Evercoreなど
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日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策①
世界では、非上場株式への流動性提供はインターネットを用いたマッチング方式(PTS、ATS方式)を採用しつつ
あり、日本は2周遅れの状況
 インターネットを用いた株式のセカンダリー取引機会の提供は、多くの場合私設取引市場(PTS)の規制を受ける
 私設取引市場(PTS)が取扱うことができる有価証券について、金商法上の制限は存在しない
 日証協の自主規制「店頭有価証券に関する規則」第3条により、証券会社による非上場株式の取扱いは厳格な制限に服する結果、
非上場株式の売買の取扱いを行うPTSの認可は不可能
ー 非上場株式のセカンダリー取引をインターネットを用いて行うビジネスモデルを、現行の日証協規制は想定していない(フェニックス又は株主コミュニティの
範囲においてのみ可と整理している)
 Nasdaqは子会社に非上場株式とVCファンド持分のセカンダリーマッチングを行うATSとしてNasdaq Private Marketを保有
 Nasdaq Private Marketで取引可能にしたことにより、73企業が非上場のまま時価総額10億ドル以上を達成
 ブロックチェーンベースの非上場証券の取引市場を創設するため、米国ではATSライセンスの取得が急増
 ForgeはP2P取引として構成することによって、ブローカーライセンスでセカンダリーのマッチングを実現か
ー SoFi, Robinhood, Airbnb, Grab, SpaceX, Palantir Technologies等を取扱い
<日本の規制の現状>
<世界の状況>
日本では「そもそも存在が許されない」マーケット/ビジネスとなっているが、グローバルスタートアップを生むための大き
な障害になっているのではないか?
ー 早上がりを実現するための新興市場マーケットの存在自体は良いが、そのことによって、ユニコーンを生むことを促進する非上場株
式のセカンダリーマーケットは不要ということにはならない
ー 非上場株式の流動性を高めることで、スタートアップ企業が非上場のままで世界に打って出られる環境を整えるべきではないか
Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 10‐
日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策②
インターネットの存在を「前提」とした非上場証券の私募規制のあり方を真剣に考えるべきではないか
 一種業者による非上場株式のプライマリー市場での仲介は、禁止が原則
ー 適格機関投資家限定のほかには、株主コミュニティ制度くらいしか存在しない
 流動性がないエクイティについて、形式的に一項有価証券に当たると取扱い禁止が原則となり、二項有価証券として作りつければ取扱
いが許容されている
ー 取扱い禁止が情報の非対称性を理由とする投資者保護を趣旨とするのであれば、この規制のギャップは不合理ではないか
ー リスクベースで見た場合に、株式とファンド持分とで株式のほうが一般投資者のアクセスを制限しなければならない理由はないのではないか
ー 二項有価証券を用いたクラウドファンディングへの投資者アクセスの急増は、一項有価証券に対する投資者アクセスを過度に制限していることを裏から証明
しているのではないか
ー 補完的なファイナンス手法が生まれたにも関わらず、それを踏まえた自主規制の見直しをしなかった結果、自主規制レベルでのレギュラトリー・アービトラージ
を業界自らが招いているのではないか
<業規制の問題>
<開示規制の問題>
 インターネットは、非上場スタートアップについての一般投資者との情報非対称性の問題をきわめて安価に解消させる技術
ー 非上場スタートアップ自身による情報開示
ー SNSによる起業家による情報開示
ー ウェブメディアによる監視と情報提供
 「声掛けベースの募集規制」は、インターネットによる情報流通の劇的な低価格化の恩恵をあきらかに阻害している
ー 「声掛けベースの募集規制」は、投資者保護を趣旨としているが、これはインターネットによる資本アクセスを、発行体・投資者双方にとって阻害
ー 「声をかけられても購入できなければ投資者保護との関係では何ら問題がないはず」というJOBS Actによる私募改革の根本理念は、インターネットの出現
により、より安価に情報非対称性を解消することができるようになり資本アクセス向上の許容性が増したことによる、情報アクセスに対する証券法ルールの
大きな転換
 非上場株式マーケットにおけるプレイヤーの洗練、非上場スタートアップが世界市場での戦いを強く期待されていること、を反映した私募
調達ルールが必要
ー ベンチャーファイナンス手法の高度化、ベンチャーキャピタリストの実力向上、高学歴起業家・連続起業家の急増 etc.
Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 11‐
日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策②
「非上場エクイティ市場の民主化」は、あらゆる局面で急速に進捗している
 組合型ファンド持分
ー 適格機関投資家等特例業務を通じて、投資性資産を1億円以上持つ個人であれば、非上場株式へのアクセスが可能
ー SIVによる単銘柄ファンドも許容されており、「ポートフォリオを構成してリスクが低くなっているから許される」という反論は通用しない
 株式以外の投資型クラウドファンディング持分
ー 不動産特定共同事業法の緩和を通じた不動産のエクイティ投資へのアクセス
ー 集団投資スキーム持分を通じた不動産のエクイティ投資へのアクセス
ー 集団投資スキーム持分を通じた事業投資へのアクセス
 テクノロジーを用いた新たなアセットクラス(セキュリティ・トークン)
ー 集団投資スキーム持分に該当
ー 改正法により一項有価証券として扱われるが、日証協ルールにおける店頭有価証券に含まれるか不明
ー 改正法は、インターネットネイティブのセキュリティ・トークンを、インターネットを通じて募集してはならない(訪問や電話で勧誘せよ)という極めておかしな私
募規制となっている
<日証協ルール外での非上場エクイティへのアクセス(プライマリー)>
非上場エクイティ市場の民主化は日証協ルール外(海外・国内とも)で進展しているのに、株式だけが、使われない株主コミュ
ニティと使い勝手の悪い株式型クラウドファンディングの領域に押し込まれていては、ユニコーンスタートアップの創出はおぼつかない
のではないか?
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日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策②
JOBS Act(2012年)が行った株式の私募改革の真剣な研究と制度面でのキャッチアップが急務
 JOBS Act(2012年)は、株式公募規制改革を通じて非上場会社の株式による資金調達アクセスを大幅に改善することに
成功
 我が国ではクラウドファンディング適用除外(Title III)のみが着目され、追随したが、本質的だったのはインターネット時代の
株式公募規制(なかんずく開示規制)の考え方を大転換したことだったのではないか
 私募範囲の拡大がもたらした調達トレンドの変化が、米国のユニコーン急増の制度的な背景にあるのではないか
ー Accredited Investor向けのインターネットを通じた私募調達が可能となったこと(Reg D改革)により、シードファンディ
ングが容易化、その後の継続的な調達につきVCファンディングとの補完関係を築くことに成功
• AngelList、EquityZen
ー 米国におけるインターネットを通じた募集でも私募が可能となったことによって、海外からの投資の呼び込みが容易になり
(Reg Sの適用拡大)、出資受け入れ額をさらにレバレッジすることが可能となった
• Bnk to the Future
 JOBS Act(2012年)は、インターネット時代の資本アクセスの効率化を視野に入れたものであったことが、その後に出現したデジタ
ル証券による分散型資金調達という新しいパラダイムにおいて、起業家や投資家に試行錯誤をすることを許容した側面も、強調さ
れるべき
 トークンが証券と解釈される中、インターネットを通じたトークンによる資金調達を迅速にReg Dにしたがって実施することができ
たのは、JOBS Actにより勧誘規制が改正されたため
ー 日本ではセキュリティ・トークンを一項有価証券に位置づけた結果、インターネットを通じたトークンによる資金調達は(声掛け50人規制によ
り)一律に募集として扱われ、少額電子募集による1億円を上限とする調達しかできなくなってしまった。
 発行登録を要しないミニIPOを可能とするReg Aの上限を5百万米ドルから50百万米ドルに引き上げた結果(Reg A+)、
セキュリティ・トークンによる調達の手法としてReg A+が使用される流れとなりつつある。
ー BlockstockによるRegA+を用いた28百万ドルの調達
ー PropsによるRegA+を用いた21百万ドルの調達
これらのトークンは、今後ATSにおいて取引される
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ベンチャーファイナンスの実務における論点
ベンチャーファイナンスの契約条件は、経営株主に対する買戻条項以外は、ほぼ世界のベンチャーファイナンスの契約
実務と同等の内容にまで進化
優先配当条項
残余財産優先分配条項(Liquidation Preference)
普通株式への転換請求権(取得請求権) - 稀釈化防止条項
[償還請求権]
普通株式への強制転換権(取得条項)
取締役選任権
拒否権(Protective Provision)
情報請求権(オブザーバー権、報告義務、立入検査等)
エグジットに関する誓約(上場努力義務、マーケットスタンドオフ等)
新株引受権
先買権(Right of First Refusal)
共同売却権(Co-Sale Right)
強制売却権(Drag Along Right)
[買戻請求権]
キーマン条項(職務専念義務、競業避止義務等)
定款記載事項
株主間契約
記載事項
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ベンチャーファイナンスの実務における論点
投資家、スタートアップ企業、経営株主の間の各条項のフェアネスの視点が経産省からガイダンス形式で示される
に至っているが、依然として銀行VC時代の実務をひきずったガラパゴス実務を一部で温存
 我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(2018.3)
ー クローズドなコミュニティ間で展開していたベンチャーファイナンス市場に多様なプレイヤーが参入してきたことにより、暗黙による
慣行を言語化して広く社会に共有することが必要になった
ー かつてはVC間の競争やポリシーの相違等により、ベンチャーキャピタル側としても統一した見解を出すのが難しかったが、政策
の後押しを得て経産省が主体となってフェアネスの観点から各条項のマーケットタームをとりまとめ
ー 日本の現行実務を踏まえてスタートアップと経営株主、投資家の利益調整をバランスよく図ったものとして評価
 日本のガラパゴス実務として依然として残るのは、発行会社と経営株主を一体と見て責任を課し、連帯責任を取らせようとする
投資家の一貫した態度
ー 銀行系VCが主流であった日本のベンチャーファイナンス実務の名残り
ー 払込価額と時価のうち高い方の額で、経営株主に買取義務を課すことにより、経営株主の意思決定に重大な影響を与え
ることができるポジションを確保
 トリガーは、①会社/経営株主による表明保証違反、②会社/経営株主による契約違反、③上場できるのに上場しない、の3つ
ー 経営株主が会社の運営に責任を負っている実態や、エグジット機会が提供されないVCの懸念は理解可能ではあるものの、
他方でVCは海外スタートアップには同条件を要求しないダブルスタンダードの運用をしている
 結果として早上がりの小粒スタートアップしか生まれないことと何らかの連関があるのではないか?
ー 経営者保証ガイドラインにより、経営者と会社の財務が分離され、財務諸表の透明性が確保されている中小企業に対する
金融機関による貸付には、経営者からの個人保証を取らない方向に貸付慣行が変化しているなか、よりリスクを取っているは
ずのエクイティ投資家が、経営者による投資元本の個人保証を求める投資慣行は、グローバルスタートアップを生むという政
策を実現するうえで、健全な投資慣行として引き続き正当化することができるか?
 「実際には行使しない」という反論は、行使をちらつかせて経営株主の意思決定に重大な影響を与えることができるポジションを確保すること
の問題に対する反論となっていない点に注意
 ファイナンス条項は経済条件の問題であるため本来統一的に合理的な条件に落ち着いてよいと思われるところ、日本ではガラパゴス実務を
温存する必要があるとすると、その合理的な理由はなにか?が問われる必要
Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 15‐
質疑
弁護士 増 島 雅 和
森・濱田松本法律事務所
tel. 03.5220.1812
email. masakazu.masujima@mhmjapan.com

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  • 1. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 0‐ ©2013 Mori Hamada & Matsumoto all rights reserved©2017 Mori Hamada & Matsumoto all rights reserved 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士 増 島 雅 和 ベンチャーファイナンスの法的課題と論点 官学フォーラム「イノベーションとファイナンス」 July 2019 ー インターネットによる資本アクセスの民主化の潮流への制度対応 ー
  • 2. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 1‐ 自己紹介 増島 雅和(ますじま まさかず) 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士 2001 弁護士登録 2006 米国ウィルソン・ソンシーニ法律事務所(シリコンバレーオフィス) 2007 ニューヨーク州弁護士登録 2010 金融庁監督局銀行第一課(RRP担当)兼保険課 日経CSISバーチャルシンクタンク・フェロー 2013 経済産業省 新事業創出支援関係者会議 委員 2015 IMF外部カウンセル(米国FSAP: 金融破綻処理法制担当) 2016 経済産業省 FinTech研究会 ブロックチェーン研究会 委員 内閣官房IT総合戦略本部 シェアリングエコノミー検討会合 委員 全銀協オープンAPIのあり方に関する検討会 委員 2017 経済産業省 ブロックチェーン法制度検討会 委員 経済産業省 研究開発型ベンチャー企業と事業会社の連携加速に向けた調査検討会 委員 2018 内閣府 革新的事業活動評価委員会 委員 2019 総務省 AIインクルージョン検討会議 委員 日本クラウドファンディング協会理事、日本ベンチャーキャピタル協会顧問、FINOVATORS代表、 日本ブロックチェーン協会アドバイザー、仮想通貨事業者協会顧問、ブロックチェーン推進協会アドバイザー 等 イニシアチブ: 金融の力で我が国産業構造のイノベーションを加速する「Startup Innovators」主宰 http://startupinnovators.jp/
  • 3. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 2‐ トピック 1. 日本のイノベーション・エコシステムの課題 2. 課題に対する打ち手ー検討の視点ー 3. 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策① 4. 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策② 5. ベンチャーファイナンスの実務における論点
  • 4. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 3‐ 日本のイノベーション・エコシステムの課題 現在の日本のスタートアップ政策は、Society5.0の社会実装のための重点施策の一つとして位置づけられている 「Society 5.0」の社会実装において、イノベーションの担い手であるベンチャー企業は重要な存在であるが、我が国発の ユニコーン・ベ ンチャーは依然として少なく、また、各国・各地域間でのベンチャー・エコシステム競争はますます激化して いる。 このままでは日本は世界の成長に取り残されるのではないか、今こそグローバルに成長するベンチャー企業を生み 出すために英知を結集すべきではないかという危機感のもと、世界で勝つことのできる有望なベンチャー及びそれらの候 補を創出する若者に対して政策リソースを重点化することにより、我が国経済を牽引するような企業を創出することが 求められている。 このため、我が国の強みを活かし、官民が一丸となってあらゆる政策を総動員すること等を通じて、我 が国のベンチャー・エコシステムの構築を加速し、グローバルなベンチャー企業を生み出していく。 未来投資戦略2018 ー「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革ー  設定KPI  ベンチャー企業へのVC投資額の対名目GDP比を2022年までに倍増 ー 2014年-2016年の3カ年平均:0.025% ー 2015年-2017年の3カ年平均:0.030%  ユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)及び上場ベンチャー企業(2018年 度当初時点で未設立又は創業10年以内)を2023年までに20社創出 ー 未上場企業:2社(2019年2月現在) ー 上場企業:5社(2019年4月現在)  施策  グローバルに活躍するベンチャー企業の創出・育成  イノベーションと創業支援  新規産業の創出 世界で戦えるメガベンチャーを生み出す ために資本市場はなにができるか?
  • 5. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 4‐ 日本のイノベーション・エコシステムの課題 世界的なスタートアップとなるためには、投資期間を稼げることが必要 時間  グローバルなマーケット開拓のためにJカーブを深く掘ることが必要  レベニューを生むまでの資金投下額が大きくなる研究開発型ベンチャー(Society5.0型)はJカーブが深くなる 資金 • 海外マーケット開拓 • 研究開発資金(モノ製作資金) 日本の未上場・上場の資本市場は、 スタートアップが世界を狙ってJカーブを 深くすることを許容する制度に なっているか?
  • 6. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 5‐ 日本のイノベーション・エコシステムの課題 日本の資本市場は、未上場・上場の双方の市場ともに国内特化型の小型スタートアップを促進する方向に機能し ているのではないか 時間 資金 早期黒字化の要請 早期上場の要請 赤字を許容しない 上場株式市場 早期上場 可能な市場 • VCファンドのエグジット期間の想定は3-5年 ー VCによる早期上場のプレッシャー  経営者に対する買取義務  「上場できるのに上場しない場合には買取れ」 • 上場のためには実務的には黒字化(又は上場 後早期の黒字化)が求められる  赤字上場が許容されるのは例外  上場審査の厳格化の傾向 • 上場後には赤字を許容しない株式市場  非上場のまま海外市場を開拓する 選択肢がない  上場後も海外市場の開拓のための 資金投下を株式市場が許容しない 言語の問題、経営層のダイバーシティのなさ、早期上場可能な 市場の存在を背景に、国内マーケットのみ小さく取って早上がりし、 その後にも国際化できないスタートアップのみ再生産 日本人 経営陣
  • 7. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 6‐ 日本のイノベーション・エコシステムの課題に対する打ち手ー検討の視点 問題を特定し、打ち手を講ずるためには、取り巻く環境の全体から制度間の補完関係を正しく読み解くことが重要  早期上場することができる(が赤字を認めたがらない)市場が存在すること自体は問題ではない  ユニコーン企業がすべてではないし、上場後に時価総額を伸ばすベンチャー企業も存在  アマゾン型の成長を目指して粘り強く市場に「将来のための意志ある赤字」への理解を求めるベンチャー企業も ー メルカリ  早期上場を念頭に、上場後のバリューアップにコミットしてレイターステージから投資する新しいタイプのファンドも登場 ー シニフィアンのTHE FUND  VCファンドの行動は、その後ろにいるLP投資家の期待を反映したものに過ぎない  LP投資家である事業会社・金融機関の中期経営計画  VCとしても後続ファンドを立ち上げてマネジメントフィーを課金しないと固定費を賄えない ー マネジメントフィーは設立から5年経過後に低下 ー 後続ファンドの資金調達のためにも現ファンドのエグジット実績は重要  シード・アーリーステージを支える代替的な資金調達手段の出現  ものづくり系スタートアップに対するプロダクトマーケットフィットの活動を資金面で支える購入型クラウドファンディング ー Makuake(マーケティング型クラウドファンディング)  研究開発系やSDGs系スタートアップの長期資金ニーズを支える寄付型・半購入型クラウドファンディング ー Readyfor  シード段階のスタートアップに向けた株式型クラウドファンディング ー FUNDINNO、エメラダ・エクイティ  上場後に成長資金が必要なスタートアップに対する劣後貸付を提供するソーシャルレンディングも登場 ー クラウドポート  低金利を背景としたリスクマネー供給に対するアペタイトは、機関投資家にとどまらず拡大している ー ファンドへの投資家層の拡大、エンジェル投資家層の拡大、代替的ファンディング手段への投資家層の拡大
  • 8. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 7‐ 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策① 第一種金融商品取引業者による非上場会社の株式取扱いの解禁(又は緩和)を通じた、非上場株式市場のビ ジネスモデルの多様化を図ることはできないか  証券会社に対して、非上場株式の私募の取扱いや売買の仲介を規制する法律は存在しない  日証協の自主規制「店頭有価証券に関する規則」第3条により、証券会社による非上場株式の取扱いは厳格な制限に服する ー 適格機関投資家向け投資勧誘(4条) ー 適格機関投資家以外に向ける場合には、日証協に届け出た上で日証協が適当と認めたものに限定(6条) ー 上記以外に目論見書が不要なものは、株主コミュニティ制度又は株式投資型クラウドファンディングのみ <背景>  IPOまでの期間の長期化  上場せずに多額の資金をグローバルに集めることができる市場環境  初期投資家にエグジット機会を提供する必要性  初期投資家にエグジット機会を提供することができているからこそ、IPOまでの時間を長くすることができユニコーンがうまれやすくなっている  メガ投資を呼び込むにあたっての大きな希釈化を防止するためのセカンダリーアレンジメントの必要性  グローバルなメガ資金調達をリードすることができない日本のVCの現状からすると、プロフェッショナルによるメガ調達のアレンジメントサービスがユニ コーン化には必須なのではないか? 世界の非上場株式のセカンダリー取引の推移 資料:Coller Capital <日本の規制の現状>
  • 9. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 8‐ 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策① セカンダリーに特化するファンドもユニコーン化を推進するための補完的な方策だが、日本はセカンダリーファンドを標 榜するファンドは少ない  投資家のポートフォリオのダイバーシフィケーションを促進し、非上場株式投資のリスク管理をしやすくする  スタートアップの非上場期間を長くすることでJカーブを緩やかにすることが可能  スタートアップの資本戦略の柔軟化にも役立つ <セカンダリー市場の意義> <売り手層の拡大>  マーケットの状況に応じて戦術的にアセットアロケーションを調整するニーズ  戦略的投資家(事業会社)の戦略変更に伴う売却ニーズ ー 人事異動・経営陣の交代 ー ビジネスモデルの変更に伴うポートフォリオの入れ替えニーズ ー 事業会社自身のM&Aに伴うポートフォリオの売却ニーズ  ファンドの増加によりファンド満期に伴う売却ニーズが拡大 <買い手層の拡大>  伝統的なセカンダリー特化型ファンドモデル  VC持分ごとセカンダリーで購入するFoFモデル  世界ではランダムな投資家層の拡大 ー 富裕層 ー エンダウメント ー 基金・年金 <プロフェッショナルアドバイザー層の拡大> 海外ではGreenhill, Campbell Lutyens, Park Hill, UBS, Lazard, Credit Suisse, Evercoreなど
  • 10. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 9‐ 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策① 世界では、非上場株式への流動性提供はインターネットを用いたマッチング方式(PTS、ATS方式)を採用しつつ あり、日本は2周遅れの状況  インターネットを用いた株式のセカンダリー取引機会の提供は、多くの場合私設取引市場(PTS)の規制を受ける  私設取引市場(PTS)が取扱うことができる有価証券について、金商法上の制限は存在しない  日証協の自主規制「店頭有価証券に関する規則」第3条により、証券会社による非上場株式の取扱いは厳格な制限に服する結果、 非上場株式の売買の取扱いを行うPTSの認可は不可能 ー 非上場株式のセカンダリー取引をインターネットを用いて行うビジネスモデルを、現行の日証協規制は想定していない(フェニックス又は株主コミュニティの 範囲においてのみ可と整理している)  Nasdaqは子会社に非上場株式とVCファンド持分のセカンダリーマッチングを行うATSとしてNasdaq Private Marketを保有  Nasdaq Private Marketで取引可能にしたことにより、73企業が非上場のまま時価総額10億ドル以上を達成  ブロックチェーンベースの非上場証券の取引市場を創設するため、米国ではATSライセンスの取得が急増  ForgeはP2P取引として構成することによって、ブローカーライセンスでセカンダリーのマッチングを実現か ー SoFi, Robinhood, Airbnb, Grab, SpaceX, Palantir Technologies等を取扱い <日本の規制の現状> <世界の状況> 日本では「そもそも存在が許されない」マーケット/ビジネスとなっているが、グローバルスタートアップを生むための大き な障害になっているのではないか? ー 早上がりを実現するための新興市場マーケットの存在自体は良いが、そのことによって、ユニコーンを生むことを促進する非上場株 式のセカンダリーマーケットは不要ということにはならない ー 非上場株式の流動性を高めることで、スタートアップ企業が非上場のままで世界に打って出られる環境を整えるべきではないか
  • 11. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 10‐ 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策② インターネットの存在を「前提」とした非上場証券の私募規制のあり方を真剣に考えるべきではないか  一種業者による非上場株式のプライマリー市場での仲介は、禁止が原則 ー 適格機関投資家限定のほかには、株主コミュニティ制度くらいしか存在しない  流動性がないエクイティについて、形式的に一項有価証券に当たると取扱い禁止が原則となり、二項有価証券として作りつければ取扱 いが許容されている ー 取扱い禁止が情報の非対称性を理由とする投資者保護を趣旨とするのであれば、この規制のギャップは不合理ではないか ー リスクベースで見た場合に、株式とファンド持分とで株式のほうが一般投資者のアクセスを制限しなければならない理由はないのではないか ー 二項有価証券を用いたクラウドファンディングへの投資者アクセスの急増は、一項有価証券に対する投資者アクセスを過度に制限していることを裏から証明 しているのではないか ー 補完的なファイナンス手法が生まれたにも関わらず、それを踏まえた自主規制の見直しをしなかった結果、自主規制レベルでのレギュラトリー・アービトラージ を業界自らが招いているのではないか <業規制の問題> <開示規制の問題>  インターネットは、非上場スタートアップについての一般投資者との情報非対称性の問題をきわめて安価に解消させる技術 ー 非上場スタートアップ自身による情報開示 ー SNSによる起業家による情報開示 ー ウェブメディアによる監視と情報提供  「声掛けベースの募集規制」は、インターネットによる情報流通の劇的な低価格化の恩恵をあきらかに阻害している ー 「声掛けベースの募集規制」は、投資者保護を趣旨としているが、これはインターネットによる資本アクセスを、発行体・投資者双方にとって阻害 ー 「声をかけられても購入できなければ投資者保護との関係では何ら問題がないはず」というJOBS Actによる私募改革の根本理念は、インターネットの出現 により、より安価に情報非対称性を解消することができるようになり資本アクセス向上の許容性が増したことによる、情報アクセスに対する証券法ルールの 大きな転換  非上場株式マーケットにおけるプレイヤーの洗練、非上場スタートアップが世界市場での戦いを強く期待されていること、を反映した私募 調達ルールが必要 ー ベンチャーファイナンス手法の高度化、ベンチャーキャピタリストの実力向上、高学歴起業家・連続起業家の急増 etc.
  • 12. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 11‐ 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策② 「非上場エクイティ市場の民主化」は、あらゆる局面で急速に進捗している  組合型ファンド持分 ー 適格機関投資家等特例業務を通じて、投資性資産を1億円以上持つ個人であれば、非上場株式へのアクセスが可能 ー SIVによる単銘柄ファンドも許容されており、「ポートフォリオを構成してリスクが低くなっているから許される」という反論は通用しない  株式以外の投資型クラウドファンディング持分 ー 不動産特定共同事業法の緩和を通じた不動産のエクイティ投資へのアクセス ー 集団投資スキーム持分を通じた不動産のエクイティ投資へのアクセス ー 集団投資スキーム持分を通じた事業投資へのアクセス  テクノロジーを用いた新たなアセットクラス(セキュリティ・トークン) ー 集団投資スキーム持分に該当 ー 改正法により一項有価証券として扱われるが、日証協ルールにおける店頭有価証券に含まれるか不明 ー 改正法は、インターネットネイティブのセキュリティ・トークンを、インターネットを通じて募集してはならない(訪問や電話で勧誘せよ)という極めておかしな私 募規制となっている <日証協ルール外での非上場エクイティへのアクセス(プライマリー)> 非上場エクイティ市場の民主化は日証協ルール外(海外・国内とも)で進展しているのに、株式だけが、使われない株主コミュ ニティと使い勝手の悪い株式型クラウドファンディングの領域に押し込まれていては、ユニコーンスタートアップの創出はおぼつかない のではないか?
  • 13. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 12‐ 日本のイノベーション・エコシステムの強化にあたっての方策② JOBS Act(2012年)が行った株式の私募改革の真剣な研究と制度面でのキャッチアップが急務  JOBS Act(2012年)は、株式公募規制改革を通じて非上場会社の株式による資金調達アクセスを大幅に改善することに 成功  我が国ではクラウドファンディング適用除外(Title III)のみが着目され、追随したが、本質的だったのはインターネット時代の 株式公募規制(なかんずく開示規制)の考え方を大転換したことだったのではないか  私募範囲の拡大がもたらした調達トレンドの変化が、米国のユニコーン急増の制度的な背景にあるのではないか ー Accredited Investor向けのインターネットを通じた私募調達が可能となったこと(Reg D改革)により、シードファンディ ングが容易化、その後の継続的な調達につきVCファンディングとの補完関係を築くことに成功 • AngelList、EquityZen ー 米国におけるインターネットを通じた募集でも私募が可能となったことによって、海外からの投資の呼び込みが容易になり (Reg Sの適用拡大)、出資受け入れ額をさらにレバレッジすることが可能となった • Bnk to the Future  JOBS Act(2012年)は、インターネット時代の資本アクセスの効率化を視野に入れたものであったことが、その後に出現したデジタ ル証券による分散型資金調達という新しいパラダイムにおいて、起業家や投資家に試行錯誤をすることを許容した側面も、強調さ れるべき  トークンが証券と解釈される中、インターネットを通じたトークンによる資金調達を迅速にReg Dにしたがって実施することができ たのは、JOBS Actにより勧誘規制が改正されたため ー 日本ではセキュリティ・トークンを一項有価証券に位置づけた結果、インターネットを通じたトークンによる資金調達は(声掛け50人規制によ り)一律に募集として扱われ、少額電子募集による1億円を上限とする調達しかできなくなってしまった。  発行登録を要しないミニIPOを可能とするReg Aの上限を5百万米ドルから50百万米ドルに引き上げた結果(Reg A+)、 セキュリティ・トークンによる調達の手法としてReg A+が使用される流れとなりつつある。 ー BlockstockによるRegA+を用いた28百万ドルの調達 ー PropsによるRegA+を用いた21百万ドルの調達 これらのトークンは、今後ATSにおいて取引される
  • 14. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 13‐ ベンチャーファイナンスの実務における論点 ベンチャーファイナンスの契約条件は、経営株主に対する買戻条項以外は、ほぼ世界のベンチャーファイナンスの契約 実務と同等の内容にまで進化 優先配当条項 残余財産優先分配条項(Liquidation Preference) 普通株式への転換請求権(取得請求権) - 稀釈化防止条項 [償還請求権] 普通株式への強制転換権(取得条項) 取締役選任権 拒否権(Protective Provision) 情報請求権(オブザーバー権、報告義務、立入検査等) エグジットに関する誓約(上場努力義務、マーケットスタンドオフ等) 新株引受権 先買権(Right of First Refusal) 共同売却権(Co-Sale Right) 強制売却権(Drag Along Right) [買戻請求権] キーマン条項(職務専念義務、競業避止義務等) 定款記載事項 株主間契約 記載事項
  • 15. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 14‐ ベンチャーファイナンスの実務における論点 投資家、スタートアップ企業、経営株主の間の各条項のフェアネスの視点が経産省からガイダンス形式で示される に至っているが、依然として銀行VC時代の実務をひきずったガラパゴス実務を一部で温存  我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(2018.3) ー クローズドなコミュニティ間で展開していたベンチャーファイナンス市場に多様なプレイヤーが参入してきたことにより、暗黙による 慣行を言語化して広く社会に共有することが必要になった ー かつてはVC間の競争やポリシーの相違等により、ベンチャーキャピタル側としても統一した見解を出すのが難しかったが、政策 の後押しを得て経産省が主体となってフェアネスの観点から各条項のマーケットタームをとりまとめ ー 日本の現行実務を踏まえてスタートアップと経営株主、投資家の利益調整をバランスよく図ったものとして評価  日本のガラパゴス実務として依然として残るのは、発行会社と経営株主を一体と見て責任を課し、連帯責任を取らせようとする 投資家の一貫した態度 ー 銀行系VCが主流であった日本のベンチャーファイナンス実務の名残り ー 払込価額と時価のうち高い方の額で、経営株主に買取義務を課すことにより、経営株主の意思決定に重大な影響を与え ることができるポジションを確保  トリガーは、①会社/経営株主による表明保証違反、②会社/経営株主による契約違反、③上場できるのに上場しない、の3つ ー 経営株主が会社の運営に責任を負っている実態や、エグジット機会が提供されないVCの懸念は理解可能ではあるものの、 他方でVCは海外スタートアップには同条件を要求しないダブルスタンダードの運用をしている  結果として早上がりの小粒スタートアップしか生まれないことと何らかの連関があるのではないか? ー 経営者保証ガイドラインにより、経営者と会社の財務が分離され、財務諸表の透明性が確保されている中小企業に対する 金融機関による貸付には、経営者からの個人保証を取らない方向に貸付慣行が変化しているなか、よりリスクを取っているは ずのエクイティ投資家が、経営者による投資元本の個人保証を求める投資慣行は、グローバルスタートアップを生むという政 策を実現するうえで、健全な投資慣行として引き続き正当化することができるか?  「実際には行使しない」という反論は、行使をちらつかせて経営株主の意思決定に重大な影響を与えることができるポジションを確保すること の問題に対する反論となっていない点に注意  ファイナンス条項は経済条件の問題であるため本来統一的に合理的な条件に落ち着いてよいと思われるところ、日本ではガラパゴス実務を 温存する必要があるとすると、その合理的な理由はなにか?が問われる必要
  • 16. Copyright © 2017 Mori Hamada & Matsumoto All rights reserved.‐ 15‐ 質疑 弁護士 増 島 雅 和 森・濱田松本法律事務所 tel. 03.5220.1812 email. masakazu.masujima@mhmjapan.com