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プロセスモデルの補完方法 -モデル・ノウハウ・人-
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プロセスモデルの補完方法 -モデル・ノウハウ・人-
1.
プロセスモデルの補完方法 -モデル・ノウハウ・人- 阪井 誠 株式会社
SRA sakai @ sra.co.jp 要旨 本稿では,モデルを補完してソフトウェア開発プロセス (以下プロセス)を成長させる方法について議論する.プ ロセスはモデルだけでなく,実践するノウハウや人が必要 であり,モデルに不足するノウハウを議論することで,新し いプロセスに追加すべきものを明確にし,プロセス改善に 役立てるのである.この提案を通して,プロセスの議論が, どのように改善し,成長させていくかといった前向きでオ ープンな議論に発展することを期待する. 1. はじめに 良いプロダクトの開発には良いプロセスモデルだけで なく,実践に必要なノウハウや人が必要である.これまで プロセスモデルやマインドセットの議論が多く行われてき たが,これらはプロセスの理解に役立つものの,より良い プロセスに成長させるには不十分であった.過去のソフト ウェアシンポジウムにおいては,プロセスは文化だと言わ れてきた.組織内のノウハウや人を無視して,プロセスを 単純化したモデルや,その実現に必要なマインドセットを 議論しても移行後のプロセス改善にはつながらない. アジャイル開発を例に挙げると「ウォーターフォールで もしっかり開発出来ないのにアジャイル開発なんて出来 るわけがない」[1]という議論がある.アジャイル開発に対 する理解不足もあるが,ソフトウェア開発に共通するプロ セスモデル以外の要素があることを示している.基本的 な技術や業務知識など,開発で考慮しないといけない点 はモデルに関係なく共通点も多いからである.アジャイル 開発を始める際に,守破離という言葉を使って厳格な実 践が求められる場合もあるが,本当にそれだけでよいの だろうか?それが本提案のきっかけである. プロセスの成熟にはモデルのほか,多くのノウハウや 経験に基づく様々な工夫が必要で,チーム内だけでなく 社内外の情報を利用して成長させる必要がある. 2. 新しいプロセスへの移行の問題 図 1 に新しいプロセスへの移行を示す.従来のプロセ スモデルで開発を行う中で,うまく適応するための工夫か らルールを追加するなど様々なノウハウが生まれ,人と組 織は成長する.しかし,モデルの問題や,実践が簡単で はないノウハウがあると,それらの解決が期待できる新し いモデルと新しいノウハウに移行される. 従来のノウハウは新しいモデルやノウハウに取り入れ られるものもあるが,廃棄されるノウハウもある.また,廃 棄されたノウハウを知っている経験者が新しいプロセスに 参画できない場合もある.こうして古いプロセスモデルと 共に文化が失われてしまうのである. 新しいプロセスモデルでの文化はすぐには成熟しない. 開発チームなどの学びはあるものの,人の入れ替えや, プラセボ(偽薬)のように新しいものは良いものであるとの 思い込みから失敗するまで守りに入るからである. この様な例としてアジャイル開発を取り上げ,新しいプ ロセスモデルに不足するノウハウの補完法を議論する. 3. アジャイル開発ケーススタディ 3.1. 実現が難しいノウハウとアジャイル開発 「アジャイル開発は,ソフトウェア工学の正統な進化 形」[2]と言われる様に実現が困難だったノウハウをアジャ 図 1新しいプロセスへの移行
2.
イル開発はモデル化している.スクラムで解決した問題 例を以下に示す. ・「現地現物」はプロジェクト管理のノウハウだが,従来は 成果物,特に実装を確認するまでに時間がかかり,実 装確認後のフィードバックが難しかった.スクラムにおい ては繰り返しのスプリントごとにレビューを実施すること で,適切なフィードバックが可能になっている. ・ハンフリーはソフトウェア開発に「自律的なチーム」や 「その最大限の能力を最大限発揮できるようメンバ ーを動機付け,コーチし,後押しする」ことが重要だ としたが[3],規律に基づく組織では困難な場合もあ った.スクラムではスクラムマスターがチームを支援する 奉仕者であり,真のリーダーとなっている[4]. このように従来は困難だったノウハウがスクラムのプロセス モデルでは解決されている. 3.2. スクラムにおけるプロセスモデルの補完 ベームはリスク管理されていることをリスク駆動と呼び, スクラムに対してマネジメントプロセスは制約の源泉として 完全に適用できるが,リスク/機会は制約として適用でき るのは部分的とし,強いリスク駆動とはされていない[5]. プロダクトバックログ(PBL)につけられた優先順位に応じ てストーリを実現する仕組みだからである. これに対して,ジェフサザーランドは,プロダクトオーナ ー研修で「PBL は価値最大,リスク最小で優先付け」と説 明し[6],スクラムのモデルを補完するノウハウを示してい る.また,開発チームにおいては妨害リストが管理される など,ノウハウでプロセスモデルを補完してリスクが管理さ れるようになっている. その一方で,イテレーティブな開発を「はじめに小さく 失敗する」と説明し,小さな単位で開発することであたか も全てのリスクが減るように表現されることもある.また,リ スクに関して記述の少ない書籍も多い.これはプロセスが 未熟というよりは,業務によって必要性が異なるからと考 えられる.モデルに組み込まれていないノウハウは,業務 などによって取捨選択されている可能性がある. 4.
議論 ここではスクラムという汎用的なプロセスをリスク管理で 考えたが,各企業のプロセスにおいても,プロセスモデル だけでなく,それを補うノウハウの議論が必要であろう. プロセスは,プロセスモデルだけでなく,ノウハウや人 を含めた文化であり,モデルを忠実に実践するだけでは 成熟が困難な場合がある.社内外の知識の利用が必要 で,コミュニティや書籍,経験者の知恵を借りることで,よ り良いプロセス改善することが可能になる. 例に挙げたリスクに関しても,リーンソフトウェア開発の 「決定をできるだけ遅らせる」プラクティスなども参考にな るだろう[7].また業務固有のリスクなら,社内外の知見者 の意見は大いに役立つと考えられる.このように収集した ノウハウを組織に合わせて取捨選択し,モデルと組み合 わせて補完すればプロセスを成長させられるだろう. 5. おわりに CMM ブームの後,TQC を懐かしむ声を聞くことがあっ た.新しいプロセスを導入した際に,それまでに積み上げ てきた文化を無くして移行してしまったからである.単に 捨ててしまうのではなく,重要なノウハウを利用してプロセ スを成長させていくべきである.今回の提案を通して,ど のように改善し,成長させていくかといった前向きでオー プンな議論に発展することを期待する. 参考文献 [1] アジャイルよろず相談室, 「ウォーターフォールでも しっかり開発出来ないのにアジャイル開発なんて出 来るわけがない」という言い方をどう思いますか?, https://qr.ae/pGLjdc, Quora, Inc. [2] Yasuharu NISHI, ちなみに僕のスタンスは,アジャ イルはソフトウェア工学の正統な進化形だというもの です.進化がアンチテーゼを必須にするというなら, アジャイルは一度ソフトウェア工学を否定しなきゃい けないんでしょうし,それも含めて正統な進化形で す., https://twitter.com/YasuharuNishi/status/ 1164336449967099904, Twitter, 2019 [3] 阪井, デブサミ運営事務局・SEshop.com 編集部編, リーダーに求められる大切なこと, 100 人のプロが選 んだソフトウェア開発の名著, pp.20-21 , 翔泳社, https://www.slideshare.net/MakotoSAKAI/ss-16581244, 2012 [4] Ken Schwaber, Jeff Sutherland, ス ク ラ ムガイド , https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scru m-Guide-Japanese.pdf, ScrumGuides.org, 2020 [5] バリー・ベーム,アジャイルと規律, pp.205-210, 日経 BP 社, 2004 [6] Sukusuku Scrum, スクラムプロジェクト準備(公開用) No.31, https://www.slideshare.net/SukusukuScrum/ no31-13338313/41, p.41, 2012 [7] メアリー・ポッペンディーク, トム・ポッペンディーク,リ ーンソフトウェア開発, pp.79-109, 日経 BP 社, 2004
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